『白夜行』 良くも悪くも堀北真希の映画

白夜行 [DVD]

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(※ネタバレ)

 一番印象に残ったのは堀北が一度だけ本心をさらけだしたシーン。レイプされた夫の妹に対して叱咤激励をする。「貴方の苦しみはわかる、私もされたから。でもここで負けてはダメ。卑劣で汚らわしい奴らになんか....」しかし、そんな言葉を吐きながらも立ち直らせようとしてる相手をレイプさせたのも堀北。不信感を向けてくる夫の妹を信用させる為に仕組んだ。
レイプという手段は、幼少期母に売りをやらされていた彼女の苦しみに基づいている。母に売春を強要されてたからこそ、強姦される苦しみがわかり、それを武器にして利益のために鎌を振りかざす。「あんな風にはなりたくない」と思い続けていた母親と結局は同じになっている怪物の悲しみ。
 『白夜行』、映画がホラー調演出なのは種明かしが最後のせいかな。観客は悪行の理由が「わからない」から堀北が怖い。怖いという感情を沸き立たせるホラー演出。 実は簡単だった真実が明かされると、怪物に見えた堀北が一気に可哀相になる。夫が言っていたように彼女には「ただ1人として友達がいない」。本当に好きと想ってくれる人もいない、"ただ1人の同志"は自分と違って国から追われる極貧の犯罪者。そして最後には、その光無き道を共に歩んだ"ただ1人の同志"も自殺してしまう。彼の死体を前にしても彼女は素通り、=仮面を被り続けるシーンで作品は終わり、一体なんのために彼女が仮面を被っているのかわからなくなる。「あんな風になりたくない」んじゃなかったのか。スカーレット・オハラのような気高い女性を志していたんじゃなかったのか。自分でも、わけわからなくなってるんじゃないのか。想像してたより怪物はちっぽけで、いつも背中を震わせて生きている。


〜蛇足〜
 相手役の亮二は高良健吾で個人的にイマイチ。最後真相に迫った刑事の前で自殺を図るんだけどこれがちょっとおかしい。原作とドラマ版では謎を解き明かした刑事を殺そうと詰め寄って死んでしまうが、映画だと勝手に死ぬ。雪歩(堀北真希)の影として生きる亮司が自ら死を選んではダメでしょう。「自分がここで死ねば雪歩が罪に問われない」から死ななければ。それじゃないと2人の悲しみが作品に出てこず、残るのは「高良健吾が可哀相」「堀北真希が悪女」ってことだけ。確かに2人とも可哀相だけど、堀北は虚構に生きる惨めさ・高良健吾は自殺までする哀れさという「それぞれ別の可哀相」なのであって、この映画が表現する哀しみは原作のような「悲劇的な運命に生まれ太陽の無い道を歩かなければ生きてゆけなかった2人の哀しみ」はではない。高良よりも堀北が目立っている。だから良くも悪くも悪女・堀北真希の映画。(最初に書いたシーンしか印象は残らなかったが....、腹を据えて悪女役を演じたのは評価されるでしょう。演技は戸田恵子が1番良かった)

 『白夜行』のドラマが好きなので長くなったけど映画は及第点。