映画でしか味わえない豊穣の"海"『アンダーグラウンド』(エミール・クストリッツァ監督)


「腹ペコのまま死ねるか!」
 爆撃に襲われる中、逃げるどころか自宅で朝食をとっている男が言いのけた一言。この言葉がこの映画を象徴していると思う。ツッコミどころ満載の、でもどこか納得してしまう、実に喜劇的なセンス。そして狂おしいくらいの人間賛歌だ。

 日本ではあまり知られていないユーゴスラビアの話だけど、以下のサイトを読めば少し掴める。
http://fatale.honeyee.com/culture/news/2011/032825/
(鑑賞後の人はこっちがおすすめ;http://hardasarock.blog54.fc2.com/blog-entry-540.html
エミール・クストリッツァ監督の伝説的名作「アンダーグラウンド」再上映を見た - Rogi073.Diary
  エミール・クストリッツァ監督の映画はいつも喜劇的で、政治要素が色濃いこの作品も喜劇性が際立つ。だからこそ「悲劇」が深い影を落とし、「人間賛歌」が満ち溢れるラストが共振を呼ぶ。プロットだけ見れば悲劇でしかない。なのにあんな快感を与える幕引きが行えるのは、監督の「人間賛歌」精神と「映画の力」故。そう、この映画はラストが素晴らしい。20世紀の名作に挙げられる由縁はやはり、あの幕引きに在るのではないか。映画という表現媒体だから出来る最上の表現。クストリッツァ作品は結構見てる間眠くなったりもするんですが笑、溢れいづる「人間賛歌」パワーのおかげでどうも贔屓目にしてしまう。だって素晴らしいじゃないですか。現在シアターN渋谷で上映されてますが、劇場鑑賞を薦めたい。あの豊穣の時は、映画でしか味わえない。


 1番好きなシーンは「動物園で働いている青年が朝動物たちに餌をやっていたら、いきなりの空爆に襲われる」【第1章:戦争】、序盤の序盤。動物たちを閉じ込めていた檻は地面もろとも崩れ、混乱している街にたくさんの動物が繰り出してゆく。「いつもの生活が戦火に見舞われる」という日常から非日常への切り替えを、"まるでサーカス"な動物大出勤で飾り付ける。悲劇なのにどこかワクワクしてしまう、非常にセンスフルでこの映画の味を見せつけてるシーン。