本自体がスタンド!『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 (集英社新書)

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 (集英社新書)

 「人間でありながら人間ではない」、ビルの屋上から見たサラリーマンの群衆のような「ゾンビ」の重要性が80年代から増してきたのは、現代社会の不安を表していると感じた。終わり方が見事で、流石荒木飛呂彦この本自体がスタンドみたい。岸部露伴のモデルがジョニーデップのあの役だったとは…
 『シャイニング』とデヴィッドリンチ評が面白かったので少し載せる。 

『シャイニング』評

あまりに映像が美しすぎます。現実世界よりも幽霊が現れるホテルのほうが実は素晴らしい世界だと、そんなことを暗示しているのがこの映画です。それはキューブリックの作ったファンタジーの『シャイニング』であって、ホラーではない。

デヴィッド・リンチ

主人公はエレファント・マンと呼ばれるくらいの奇形であったために、青年になってから見世物にされますが、そういう見世物小屋の中の世界をこの監督はどこかワクワクさせる感じで描いています。(略)つまり期待と不安がないまぜになったような「怖いもの見たさ」の感覚こそが、実は『エレファント・マン』の基調にあるのです。(略)デヴィッド・リンチは異形の人々に対するシンパシーを強く持っていて、世界一不幸な男だったかもしれないエレファント・マンに対してもうわべだけの同情を超え、そういう体で生きることの恐怖そのものを描き出そうとしているように思えます。

 人間の暗黒面を映画というフィクションで見ることが、恐怖への予習体験になる。ただ「美しい」「正しい」だけでなく、人間の「酷さ」や「ゲスさ」などの暗黒面も描き切れていないと優れた作品とは言えず、人間の発展に寄与する芸術にならないと断言する荒木飛呂彦の熱さを垣間見た一冊でした。