フランシス・コッポラによる父殺し。『テトロ』(100点)


 いい話、のようなもの。"いい話"で終わるには色んなことがありすぎた。
 名ある音楽家の家に生まれた主人公は、「作家になる」と言い残し家を出てしまう。遠い地で、彼は名前を変え生活していた。「テトロ」という新たな名で。そこに(主人公に置いて行かれた形の)弟が訪れる。何故、テトロは家を出たのか?家には、彼が肌身離さず抱えていたという「絶対に出版されない」原稿があった。
 『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』に並ぶ名作だと思います。コッポラは「観客は、いつも映画に感情的なものを要求していると思う。そんな中、わたし自身が感情的になれるものといったら、唯一家族だと思うんだ。」と言っている。また、本作について「実際に起きたことではないが、すべて真実だ」と。これはコッポラの父殺しなのかもしれない。偉大なる父の呪縛から解かれるには、別離か、順応か、変革しか無いのではないか。家を出るか/自分が慣れるか/親を変えるか。『テトロ』は別離を選んだ。しかし家を出ようと、系譜は、血は、継承されてゆく。これは、"別離"の先の物語。芸術家一族の大映画監督、フランシス・コッポラが綴る真実。映画ファン、そして血筋に悩まされる人には、是非見てほしい至福の名作。

 「親からの呪縛を逃れるには別離・順応・変革しか無い」と言ったが、最近は、もう1つあるのではないかと思う。それは共創。偉大なる父とは"別の偉大"になれば良い。それぞれがオリジナリティの追求をすれば、共創が可能となる。父などどうでもよくなるくらい自分を律すれば良いのだ。自立なくして共生はない。共生とは、互いの個性を認める"共創"なのかもしれない。コッポラ本人が今、父についてどのような感情を抱いているか知る由もありませんが、彼は、共創を成し遂げたと思う。こんな素晴らしい作品が作れているのだから。


 「精神と肉体の紐を解いてはならない」って感じのことが書いてある、美しいタイトルロール。いい映画すぎると具体的な感想が書けない…笑。いい映画すぎて、鑑賞後死にたくなった笑。(そこで死んだら最上の幸福が永遠になるからw)