罰が下らないという、罪 伊藤計劃『虐殺器官』
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/02/10
- メディア: 文庫
- 購入: 75人 クリック: 954回
- この商品を含むブログ (517件) を見る
主人公の選択は、こういった意味も含まれてると思う。(※ネタバレ)「ぼく」の罪を赦してくれる存在は母とルツィアしかいなかった。その二人の女性は死んだ。もう誰も「ぼく」を赦せない。ルツィアは虐殺器官のリークを望んだ。「ぼく」はリークをした。虐殺器官を忍ばせたリークを。ルツィアは「人々は屍の上に立っていることを自覚すべき」と言った。アメリカ人は、十二分に実感しただろう。屍の上に立ってたことを、屍になることで。ある意味ではルツィアが命じた罰は達成されている。「ぼく」の手によって。でもその「罰」は、ジョン・ポールに与えられたものだった。「ぼく」に授けられた罰じゃない。ルツィアからの罰を求めた「ぼく」は、罰の疑似体験をし、虚構の中生きていく。悲しい悲しいラブストーリーだ。