現実版モテキ 西村賢太『苦役列車』

苦役列車

苦役列車

 現実版『モテキ』。「友達が1人も居ない人」のことがわかる。『モテキ』の主人公も立場違えど、友人も少なく仕事も出来るわけじゃない、その上プライドだけは高い臆病者。『モテキ』はそんな男にモテ期が到来し成長する物語ですが、現実ではそんな夢は到底起こらず、本人が心持ちを直さない限り辿るのは『苦役列車』の結末。現実の『モテキ』は辛辣だ。

 オードリーの若林が「これを読んで共感しない人とは友達になりたくない」と発言していたらしいけど、ちょっとわかるな〜。『苦役列車』は非の無い人間を心中で罵倒するような男が堕ちてゆく話だけど、「主人公に妬まれる側の立場(大卒)だからなんの共感もできない」と言う人は少し違う気が。育ちではなく認識力の問題で、「直接なにかされたわけでないのに他人を勝手に恨んでしまう・妬んでしまう・マイナスな感情を抱いてしまう経験」が人なら誰しもあると思う。そしてそれを自認し、反省する。若林はそこに共感が持てない人の"認識力"を問題にしたんじゃなかろうか。苦役列車』の感想は人によってかなり違っていて面白い。(http://book.akahoshitakuya.com/b/4103032324井伏鱒二の『山椒魚』と違って人には薦めにくいですが…。
 小説としては同時収録の『落ちぶれて袖に涙のふりかかる』の方が楽しめた。由緒正しき日本文学的な文章を書く人ですな。最近の芥川賞、メディアで騒がれるタレント作家ほど作品は古典的ってサイクル感じる…。(田中慎弥とか。)